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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)14号 判決

第八号事件控訴人・第一四号事件附帯被控訴人(一審原告) 株式会社松一

第八号事件被控訴人・第一四号事件附帯控訴人(一審被告) 浅草税務署長

代理人 新井旦幸 小川修 佐々木宏中 ほか二名

主文

一  (昭和四八年(行コ)第八号控訴事件について)

第一審原告の控訴を棄却する。

二  (昭和四九年(行コ)第一四号附帯控訴事件について)

1  原判決主文第二項のうち第一審被告敗訴部分を次のとおり変更する。

2  第一審被告が昭和四一年六月二九日付で第一審原告の昭和三九年九月一日から同四〇年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正および過少申告加算税賦課決定は、課税所得金額三八六万八、八七一円を基礎として算出される税額をこえる限度において、取り消す。

3  第一審原告のその余の請求を棄却する。

三  控訴費用および附帯控訴費用はいずれも第一審原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  昭和四八年(行コ)第八号控訴事件について

当裁判所も第一審原告の請求は、本件附帯控訴事件で変更する部分(後記第二項参照)を除く原判決の認容した限度において正当であると判断するところ、その理由は、次に付加するほか、原判決書の理由欄に記載されているのと同じであるから、これを引用する。

(一)  第一審原告の当審における主張第二項について

館山食品関係の昭和三九年度支払利息一五五万八、七七五円に対する本件(一)処分(引用にかかる原判決書の略称)における更正理由の附記として第一審原告主張のとおりの記載がなされていること、館山食品関係の昭和四〇年度支払利息三〇九万七、〇〇〇円および同年度支払家賃五〇万円に対する本件(二)処分(引用にかかる原判決書の略称)における更正理由の附記として第一審原告主張のとおりの記載がなされていることはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠略>によると、本件(二)処分中の更正理由の附記として否認にかかる項目および否認金額が具体的に記載されていることが認められる。

第一審原告は、前記更正理由の附記として記載した程度では足らず、またそのように認定した資料および根拠が示されていないと主張するので案ずるのに、青色申告書にかかる法人税の課税標準もしくは欠損金額の更正をする場合における更正通知書に更正の理由を附記しなければならないとする法人税法一三〇条二項の趣旨(最高裁判所昭和三八年五月三一日第二小法廷判決民集一七巻四号六一七頁参照)からすると、前記附記理由によれば、更正を相当とする具体的根拠が明示されていると認められ、かつ、その程度の記載をもつて足りるというべきであり、また特別な事情があるときは附記理由を認定した資料および根拠を摘示することを要するが、本件事案においてはこれを摘示するのを相当とする特別な事情の存在を認めうるものがない。したがつて、前記更正理由の附記に法人税法一三〇条二項違反の違法があるとする第一審原告の主張は採用することができない。

(二)  同第三項について

第一審原告が、松井一貫より昭和三九年一一月から同四〇年八月まで館山食品の工場、設備一切を賃料月額二〇万円の約で転借し、合計二〇〇万円の転借料を支払うべき債務があるとする第一審原告の主張は、本件全証拠を検討してみてもこれを認めうる証拠がないから、その余の点を判断するまでもなく、右主張は失当たるを免れない。

(三)  同第四項について

館山食品関係の昭和三九、四〇年度支払利息の否認につき、第一審被告が本件(一)、(二)処分において、右は「期末に計上した代表者松井一貫個人よりの借入金に対する支払利息」との更正理由の附記をしており、かつ、本訴において第一審原告は実質上の貸主である松井に対し求償権を有するから、右支払利息が直ちに第一審原告の損金になるいわれがなく、仮に貸主が第一審原告であるとしても、本件係争事業年度に該貸金に対する利息を益金として計上しておらず、右は松井に対する支払利息を上廻るから右支払利息は損金として計上されるべきではないと主張しているが、同主張は前記附記理由たる支払利息の存在を否認する具体的事情を明らかにしているだけであるから、これをもつて否認項目の限界を超えた追加主張だとする第一審原告の非難は理由がない。

館山食品関係の昭和四〇年度支払家賃の否認につき、第一審被告が本件(二)処分において、右は「館山食品に対する未払家賃は債務未確定のため」との更正理由を附記しており、かつ、本訴において、昭和三九年一月一八日付の契約は、実質は使用貸借であり、仮に賃貸借であるとしても、同年三月三一日合意解除され、その後契約の事実はないと主張しているが、同主張も右と同じく前記附記理由たる未払家賃の存在を否認する具体的事情を明らかにしているにとどまるから、これをもつて否認項目の範囲を逸脱した追加主張だとする第一審原告の非難もあたらない。

(四)  同第五項について

1  同第五項(一)の事実、同(二)のうち冒頭の事実、同1の冒頭および1の(イ)の事実(ただし、館山食品に対する債権が第一審原告のものであるとの趣旨を除く)、同(ロ)の事実、同(ハ)のうち第一審原告主張の訴訟が主張の時期に主張の裁判所で和解となつたとの事実、同2および(3)の事実、同(三)および(四)の事実、同(五)のうち(イ)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  第一審原告は、前項記載のとおり江東西税務署長は第一審原告の昭和四六年度法人税確定申告に対し同四八年一〇月二六日付の別件一次更正において、本件係争年度の支払利息の元本となる館山食品に対する貸付金の主体(貸主)が第一審原告であること、同じく本件係争年度の館山食品に対する未払家賃の支払債務があることを認めた(裁判所の自白)と主張する。よつて審案するのに、本件係争年度は昭和三九、四〇年度分であるから、その後の昭和四六年度法人税確定申告に対する別件一次更正においてなされた更正理由の附記が本件係争年度における更正理由の認定に直接の影響を与えるものでないのみならず、第一審原告主張の趣旨の記載のある別件一次更正の理由中の加算1、同2については、その後の昭和四九年二月八日付の別件二次更正によつて取り消されたことは当事者間に争いがない。

これに対して、第一審原告は、別件二次更正は信義誠実の原則または禁反言の法理に反し無効であるというが、別件二次更正は国税通則法二六条によつて法律上許容されているところであり、同更正が納税者たる第一審原告に対する報復的措置として行なわれるなど担当税務署長の職権濫用であると認めるのに足りる証拠資料のない本件では、別件二次更正は適法に行なわれたものとみるほかはなく、これによつて別件一次更正のうち第一審原告の引用する部分はその効力を失つたものというべきである。第一審原告はまた、別件一次更正の本件関係部分の記載は裁判外の自白であるというが、<証拠略>によれば、江東西税務署長において別件一次更正をしたのち、同更正中の本件関係部分に誤りがあることを発見し、別件二次更正をしたことが認められ、また引用にかかる原判決の当該部分によれば、前記関係部分の記載が事実に反するものと認められるので、別件一次更正の本件関係部分の記載をもつて裁判外の自白であり、第一審被告を拘束すると解することもできない。

第一審原告はさらに別件二次更正には附記理由がないと主張するが、<証拠略>によると、別件二次更正には別紙・更正の理由に記載のとおりの理由が附記されており、これに先立つ別件一次更正の附記理由と対比すると、もと後者によつて一、五〇〇万円のうち八六〇万円の貸倒を認めていたのを、のち前者によつて一、五〇〇万円全額を貸倒と認めがたいとしたものであることが認められる。しかして、再更正による附記理由として右認定の事実が挙示してあれば、附記理由の記載がないということはできないのみならず、別件一次更正で貸倒と認めた八六〇万円を別件二次更正で否認したことは、その明示がなくても、別件一次、二次更正を対照すれば明白である。したがつて、第一審被告の右主張もまた失当である。

3  なお、第一審原告が本件係争年度の翌年度以降の確定申告において、本件係争年度に遡つてその主張にかかる未収利息を益金として計上したが、昭和四四年一〇月二九日付の更正処分で否認されたことは当事者間に争いがない。

(五)  当審において第一審原告の提出した<証拠略>のうち原判決の認定した事実に反する証拠は、同判決挙示の証拠および<証拠略>に照らすと、いずれも事実に距るものとみられるので採用するに価いせず、他に引用にかかる原判決および前記(一)ないし(四)の各認定に反する証拠はない。

二  昭和四九年(行コ)第一四号附帯控訴事件について

第一審被告主張の附帯控訴の請求原因事実は当事者間に争いがなく、その事実によれば、右附帯控訴は理由がある。

三  以上の次第であるから、昭和四八年(行コ)第八号控訴事件についての第一審原告の本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、昭和四八年(行コ)第一四号附帯控訴事件についての第一審被告の本件附帯控訴は理由があるので、原判決主文第二項のうち第一審被告敗訴部分を変更したうえ、第一審被告が昭和四一年六月二九日付で第一審原告の昭和四〇年度の法人税についてした更正および過少申告加算税賦課決定を課税所得金額三八六万八、八七一円を基礎として算出される税額をこえる限度において取り消し、かつ、第一審原告のその余の請求を棄却し、控訴費用および附帯控訴費用はいずれも敗訴当事者たる第一審原告に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野正秋 岡垣学 唐松寛)

別紙<略>

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